認知症が進んで判断能力を失った後に行った贈与は、法律上無効とされます。家族が「本人の意思だ」と主張しても、後から相続人間の争いや税務上の否認につながります。なぜ無効になるのか、後見制度や後見制度支援信託を使うとどうなるのかを解説します。
意思能力がない贈与は無効
贈与は契約であり、贈与者に「自分の財産を相手にあげる」ことを理解する能力(意思能力)が必要です。民法では、意思能力を欠く状態で行った法律行為は無効と定められています。無効な贈与は財産が移転しておらず、名義を変えても本人の財産のままです。
相続の場面では、次のような問題が起こります。
- 他の相続人から「認知症の親に書かせた」として贈与の無効を主張される
- 税務署が贈与の成立を認めず、相続財産として相続税を課税する
- 介護していた子が親の口座から引き出した資金の使途を説明できず、相続人間で紛争になる
判断能力の程度は医師の診断書や介護認定の記録、本人の言動などから後に検証されます。
成年後見人も贈与はできない
本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が選任する成年後見人は、本人の財産を守る立場です。本人の財産を減らす贈与は、たとえ相続税対策であっても原則として認められません。子への贈与、孫への教育資金の援助、保険の契約など、生前対策のほぼすべてが後見開始後はできなくなります。
後見制度支援信託とは
後見制度支援信託は、本人の財産のうち日常生活に必要な金銭を後見人が管理し、残りの大きな金銭を信託銀行に信託する仕組みです。信託した資金を払い戻すには家庭裁判所の指示書が必要になります。後見人による使い込みを防ぐための制度であり、財産を家族に移す仕組みではありません。相続対策の手段にはならない点を理解しておきましょう。信託された財産は、本人の死亡時には相続財産として相続税の対象になります。
元気なうちにできる備え
- 任意後見契約: 判断能力があるうちに、将来の後見人と委任内容を決めておく。ただし任意後見人も本人の利益に反する贈与はできない
- 家族信託: 財産の管理を家族に託し、信託契約の中で生前の資金の使い方を定めておく
- 贈与の前倒し: 相続時精算課税や暦年贈与を、判断能力があるうちに計画的に進める
- 遺言: 分割方法を決めておき、贈与できなかった場合の備えにする
認知症の診断を受けてからでは選べる対策が限られます。親が70代になったら、家族で財産の管理方法を話し合う時期と考えてください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。