遺産分割の前に相続人の一人が預金を引き出していたら|使途不明金と相続税の扱い

生前や死亡直後に相続人の一人が預金を引き出していた場合、民法上は不当利得返還請求や特別受益の問題となり、相続税では引き出した現金や返還請求権が相続財産として課税されます。協議書での整理と、申告で漏らすと加算税がかかる点を解説します。

相続の場面で最も多いトラブルの一つが、「同居していた長女が、母の口座から亡くなる前後に何百万円も引き出していた」というものです。他の相続人は「返してほしい」と考え、長女は「介護費用や生活費に使った」と主張します。この問題は遺産分割だけでなく、相続税の申告にも直結します。

まず通帳の履歴を調べる

出発点は、被相続人の口座の取引履歴を取得することです。相続人であれば、単独で金融機関に過去の取引明細を請求できます(通常は10年分程度)。亡くなる前3〜5年の入出金を確認し、高額な出金の日付と額を整理します。

民法上の整理

引き出したお金の扱いは、使い道と時期で変わります。

状況 民法上の扱い
被相続人の依頼で生活費・医療費に使った 問題なし(領収書等で裏付け)
被相続人の了解のもと自分のためにもらった 生前贈与(特別受益として持ち戻しの対象になり得る)
無断で引き出して自分のものにした 被相続人が長女に対して持つ不当利得返還請求権または損害賠償請求権が相続財産になる

無断の引き出しであれば、他の相続人は長女に対し、各自の法定相続分に応じた返還を求めることができます。これは遺産分割調停とは別に、民事訴訟で争う問題とされています。

相続税での扱い

税務上は、引き出した時期で考え方が分かれます。

  • 生前に引き出し、相続開始時に手元に現金として残っている:「現金」として相続財産に計上
  • 生前に引き出し、長女が取得した:贈与なら生前贈与加算(7年以内)の対象、無断なら被相続人の「返還請求権(債権)」として相続財産に計上
  • 死亡直後に引き出した:相続開始時の預金残高で課税され、引き出し後の使途は問われない

どのパターンでも、引き出した額が相続財産から消えることはありません。税務調査では、亡くなる数年前からの出金が「申告漏れの現金」として最も指摘されやすい項目です。申告で漏らすと過少申告加算税(10〜15%)や、隠した場合は重加算税(35%)の対象になります。

協議書での整理の方法

相続人間で争わず解決するなら、協議書に次のように整理するのが一つの方法です。

「相続人丙が被相続人の生前に引き出した金600万円のうち、被相続人の療養費に充てた金200万円を除く金400万円は、丙が取得した遺産として扱う。」

この定めにより、400万円は丙の取得財産として相続税を申告し、他の相続人との取り分の調整も済みます。使途の裏付け(医療費や介護施設の領収書)は、民法上の争いと税務調査の両方で決定的な資料になるため、必ず保管してください。

※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。

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