代償分割では、遺産を多く取得した相続人が他の相続人に「代償財産」を渡します。代償財産はお金が一般的ですが、自分がもともと持っていた土地やマンションを渡すこともできます。ただし、この場合は「不動産を代償金の額で売った」ものとして、渡した側に譲渡所得税がかかります。知らずに申告を忘れると、相続税とは別の所得税の問題が後から出てきます。
なぜ譲渡所得になるのか
代償債務は金銭債務です。それを不動産で支払うのは、民法でいう「代物弁済」に当たり、不動産を手放して債務が消えるという対価関係があります。所得税の取り扱いでも、代償財産として交付した資産は、交付時の時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算することとされています。
受け取った側は、その不動産を「代償金の額(時価)で取得した」ことになります。将来売るときの取得費はその時価、取得日は代償財産を受け取った日です。相続で取得した財産ではないので、取得費加算の特例は使えません。
計算例
兄が遺産の自社株(相続税評価額6,000万円)を取得し、妹への代償として兄が10年前に2,000万円で買ったマンション(現在の時価3,000万円)を渡すとします。
- 譲渡収入:3,000万円(代償債務の額=時価)
- 取得費:2,000万円(建物部分の減価償却は省略)
- 譲渡所得:3,000万円−2,000万円=1,000万円
- 所得税・住民税(長期譲渡、約20%):1,000万円×20.315%≒203万円
兄は相続税に加えて約203万円の所得税等を翌年の確定申告で納めることになります。なお、兄がこのマンションに住んでいたなら、居住用財産の3,000万円特別控除を使える可能性があります。
相続した財産を代償に使った場合との違い
遺産そのものを渡すなら、それは代償分割ではなく「現物分割」です。例えば遺産の中の土地を妹が直接取得する形にすれば、譲渡所得の問題は生じません。「兄がいったん相続した土地を代償として妹に渡す」と協議書に書くと譲渡と扱われる一方、「土地は妹が相続する」と書けば単なる遺産分割です。結果は同じでも、文言で税金が変わる典型例です。
実務上の対応
- 代償財産を不動産にする前に、譲渡所得の試算を行う
- 遺産の中の財産で調整できないかを先に検討する
- 不動産を渡す場合は、交付時の時価の根拠資料(査定書など)を残す
- 翌年3月15日までの確定申告を忘れない
相続税だけに目が向きがちですが、分け方によって所得税の負担が数百万円単位で変わることがあります。協議書を作る前に無料相談で分け方の比較をしておくと安心です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。