アパート3棟・駐車場1つ・自宅。不動産オーナーの相続で揉めるのは、財産の額より「どれを誰に」の部分です。結論から書くと、遺言は物件ごとに取得者を決め、その物件の借入・敷金・管理の契約も同じ人に引き継がせる形で書きます。物件を共有にする遺言は、将来の運営と売却を難しくするので避けます。
物件と一緒に引き継ぐもの
| 引き継ぐもの | 遺言での書き方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 借入(アパートローン) | 「〇〇アパートに係る△△銀行からの借入金は、長男が承継する」 | 相続人の間では有効だが、金融機関には対抗できない。相続後に金融機関と債務引受の契約をする |
| 敷金の返還義務 | 「入居者から預かった敷金の返還債務は、当該物件の取得者が承継する」 | 敷金は債務控除。取得者の負担として分け方に反映 |
| 管理会社・サブリースの契約 | 物件の取得者が貸主の地位を引き継ぐことを明記 | 契約の地位の承継の手続きが必要 |
| 火災保険・修繕積立 | 取得者に | 名義変更 |
共有を避ける理由
アパートを子ども3人の共有にすると、修繕・建て替え・売却のたびに全員の合意が必要になり、一人が反対すれば何もできません。家賃の分配、固定資産税の負担、入居者対応の窓口も曖昧になります。共有の問題は、次の世代でさらに増えます。遺言では「一人に一物件」を基本にし、物件の数と相続人の数が合わないときは、次の方法で調整します。
- 代償金:物件を取得する人が他の相続人に現金を払う旨を遺言に書く(負担付遺贈)。代償分割の相続税の扱いと同じ
- 生命保険:物件を取得しない相続人を受取人にした保険で、現金を渡す
- 物件の価値をそろえる:評価額・収支・借入残高を一覧にし、「物件−借入」の正味の額で公平を測る
遺留分
配偶者・子には遺留分(法定相続分の2分の1)があります。遺留分の計算は相続税評価額ではなく時価が基準で、借入は差し引けます。物件が一人に偏る遺言は、遺留分侵害額の請求を受ける可能性があるので、他の相続人への現金や保険で遺留分を満たす設計にします。
遺言執行者
賃貸物件の遺言は、相続登記・入居者への通知・振込先の変更・金融機関への届出が重なります。遺言執行者を指定しておくと、相続人全員の署名を集めずに手続きを進められます。
相続税の特例との関係
貸付事業用宅地の50%減額は、取得者が申告期限まで物件を持ち、貸付を続けることが要件です。遺言で取得者が決まっていれば、申告期限(10か月)までに分割がまとまらないリスクがなく、特例をそのまま使えます。遺言がない場合の未分割申告では、特例は分割後の更正の請求まで待つことになります。
当センターでは、物件一覧(評価額・収支・借入・敷金)を作ったうえで、相続税の試算と遺言の案文の整理をお手伝いしています。公正証書の作成は公証役場で行い、必要に応じて司法書士・弁護士と連携します。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。