遺言書には、誰に何を渡すかという法律上の指示のほかに、「付言事項」として遺言者の気持ちや理由を書くことができます。付言事項に法的な拘束力はありません。それでも、相続の現場では付言事項の有無で家族の受け止め方が大きく変わり、遺留分の請求を思いとどまらせることもあります。
付言事項に書く内容
よく書かれるのは次の3つです。
- 分け方の理由:「自宅を長男に相続させるのは、長年同居して介護をしてくれたからです」など
- 遺留分への配慮:「次男の取り分が少ないのは、住宅資金として既に援助したためです。遺留分の請求はしないでほしいと願っています」など
- 感謝や願い:家族への感謝、葬儀の希望、兄弟仲良くしてほしいという気持ちなど
理由が書かれていると、取り分が少ない相続人も「なぜ」を理解でき、納得につながります。逆に理由が何も書かれていない遺言は、「自分は大切にされていなかった」という感情を生み、遺留分侵害額請求に発展しやすくなります。
法的効力の範囲
付言事項で「遺留分を請求しないでほしい」と書いても、遺留分侵害額請求の権利はなくなりません。請求するかどうかは、相続人本人の判断です。遺留分を確実に制限したいなら、生前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄してもらうか、遺留分相当の財産を遺言で渡しておく必要があります。
また、付言事項に「長女の夫には財産を渡さない」のような否定的な表現や、特定の相続人を非難する内容を書くと、かえって争いの火種になります。事実と感謝を中心に、淡々と書くのが効果的です。
公正証書遺言と自筆証書遺言での扱い
公正証書遺言でも付言事項を入れられます。公証人は法律上の効力がある部分とは分けて記載するため、本文と混同されることはありません。自筆証書遺言では、本文と同じように手書きします。付言事項は財産目録ではないので、パソコン作成は認められません。
相続税申告の場面での役立ち方
付言事項に「次男には〇年に住宅資金として1,000万円を贈与した」のように過去の贈与の事実が書かれていると、相続税申告における生前贈与加算の確認や、特別受益の整理に役立ちます。税理士は相続開始前7年以内(段階的に延長中)の贈与を調べますが、家族の記憶だけでは漏れることがあります。遺言者自身が書き残した記録は、申告の正確さを高める資料になります。
付言事項は遺言の「本体」ではありませんが、家族の関係と相続手続きの円滑さに影響します。遺言を作るときは、分け方と同じくらい、言葉を添えることにも時間をかけてください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。