不動産を売って代金を分ける換価分割では、相続人全員の共有名義で登記してから売るのが本来の形です。しかし、買主との契約や決済に全員が関わるのは大変なので、「代表者一人の名義にして売る」ことがよく行われます。このとき心配になるのが、代表者から他の相続人への代金の分配が贈与と見られないかという点です。結論として、協議書に換価分割のための便宜的な登記であることを明記していれば、原則として贈与税の問題は生じません。
贈与とされない条件
税務上、代表者名義の登記が「単に売却手続きの便宜のため」であり、売却代金を協議書で定めた割合どおりに分配するのであれば、他の相続人は代表者からもらったのではなく、遺産を換価して取得したと扱われます。逆に、協議書に代表者が「相続する」とだけ書いてあり、換価や分配の記載がない場合、代表者が単独で取得した不動産を売って代金を贈与したと見られるおそれがあります。
協議書の文言例
「相続人全員は、本件不動産を換価分割するため、売却手続きの便宜上、相続人甲の単独名義とする相続登記を行うことに合意する。甲は本件不動産を売却し、売却代金から仲介手数料、登記費用、測量費用その他売却に要した費用を控除した残額を、甲2分の1、乙4分の1、丙4分の1の割合で分配する。」
ポイントは「換価分割のため」「便宜上」「分配割合」「控除する費用」の4つを落とさないことです。分配割合は法定相続分でなくても構いません。
譲渡所得は全員が申告する
売却で利益が出た場合、譲渡所得の申告は代表者だけでなく、代金を受け取った相続人それぞれが自分の分配割合に応じて行います。登記名義が代表者一人でも、税務上は全員が持分を売ったものとして扱われます。相続空き家の3,000万円特別控除や取得費加算の特例も、要件を満たせば各自が使えます。
代表者が自分だけ譲渡所得を申告してしまうと、本人の税額が過大になるうえ、他の相続人が無申告になります。売却の翌年の確定申告前に、分配の明細を全員で共有してください。
名義人になる人の負担
代表者は固定資産税の納税通知を受け、売買契約の当事者として契約不適合責任を負います。費用や責任を分担する取り決めも協議書に入れておくと安心です。また、売却まで長期間かかると「本当に換価のための登記だったのか」という疑問が生じるため、売却の見込みが立ってから登記するのが望ましい進め方です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。