「自宅は長男に相続させる」と遺言を書いたのに、長男が先に亡くなってしまった。この場合、長男の子(遺言者の孫)が自動的に自宅を引き継ぐと思われがちですが、原則としてそうはなりません。その部分の遺言は効力を失い、自宅は遺産分割協議の対象に戻ります。これを防ぐのが「予備的遺言」です。
受遺者が先に死亡すると遺言は失効する
民法は、遺贈は受遺者が遺言者より先に死亡したときは効力を生じないと定めています。「相続させる」遺言についても、特段の事情がない限り、指定された相続人が先に亡くなればその部分は効力を生じず、その人の子に代襲されることはないと解されています。
結果として、その財産は遺言のない状態となり、残った相続人全員(長男の子が代襲相続人として参加)で遺産分割協議をすることになります。遺言者が「長男の家系に自宅を残したい」と考えていたとしても、協議の結果は保証されません。
予備的遺言の書き方
予備的遺言は、本来の受取人が先に死亡した場合の受取人をあらかじめ指定しておくものです。
「遺言者は、自宅の土地建物を長男甲に相続させる。遺言者の死亡以前に甲が死亡していたときは、同財産を甲の長男乙に相続させる。」
ポイントは、「死亡以前」と書いて同時死亡の場合も含めること、予備の受取人が相続人でない場合(孫など)は「遺贈する」と書くことです。遺言書の末尾に「本遺言で財産を取得する者が遺言者の死亡以前に死亡したときは、その者の子が取得する」と包括的に定める方法もあります。
活用が特に必要な場面
- 相続人が高齢で、遺言者と年齢が近い(配偶者、兄弟姉妹)
- 配偶者に全財産を渡す遺言で、配偶者の死亡後は子に渡したい
- 相続人以外(内縁の配偶者、長男の妻)への遺贈で、その人の死亡後の行き先を決めたい
- 遺言執行者が先に亡くなる可能性もあるため、予備の執行者も指定する
配偶者に全財産を相続させる遺言は、二次相続(配偶者の相続)も見据えた予備的な定めを入れることで、二つの相続を一通の遺言で整理できます。
相続税への影響
予備の受取人が孫の場合、孫は一親等の血族ではないため、相続税額が2割加算されます。ただし、長男が先に死亡して孫が代襲相続人になっている場合は、代襲相続人として加算の対象外です。予備的遺言で誰を指定するかによって税額が変わるため、作成時に税理士と相談しながら候補を決めると安心です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。