賃貸マンションやアパートの経営で毎年まとまった家賃収入がある方は、「法人化したほうがよいのか」とよく悩まれます。法人化には所得税の節税だけでなく、相続財産の増加を抑える効果がありますが、やり方を誤ると費用倒れになります。この記事では、実務でよく使われる「土地は個人、建物だけ法人」の方式を中心に解説します。
法人化が相続対策になる理由
個人で賃貸経営を続けると、家賃収入から税金と経費を引いた残りが毎年個人の預金として積み上がり、相続財産が増え続けます。建物を法人に移せば、家賃収入は法人のものになり、個人には地代と役員報酬だけが入ります。法人から後継者である子に役員報酬を払えば、贈与税なしで所得を分散でき、将来の納税資金の準備にもなります。
例えば、年間家賃収入3,000万円、経費と税金を引いた手残りが1,200万円の場合、10年間で1億2,000万円が個人の財産に加わります。法人化してこの手残りを法人と子の報酬に振り向ければ、親の相続財産の増加をその分抑えられます。
建物だけを法人に移す方式
土地まで法人に移すと、売買代金が高額になり、譲渡所得税や登録免許税・不動産取得税の負担が重くなります。そこで、建物だけを法人に売却し、土地は個人が持ち続けて法人に貸す方式がよく使われます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建物の売却価格 | 帳簿価額(未償却残高)を基準にするのが一般的。築年数が経った建物なら低額で移せる |
| 消費税 | 建物の売却は消費税の課税取引。個人が課税事業者なら納税が生じる |
| 土地の貸付 | 法人と土地の賃貸借契約を結び、「土地の無償返還に関する届出書」を提出 |
| 地代 | 固定資産税の2〜3倍程度の地代を法人から個人へ支払う |
| 土地の相続税評価 | 相当の地代で貸し、無償返還届出があれば自用地評価額の80% |
注意したいのは、法人化の前は貸家建付地として評価されていた土地(借地権割合×借家権割合分の減額、例えば70%×30%=21%減)が、法人化後は「相当の地代で法人に貸す土地」として20%減になる点です。減額の幅はほぼ同じですが、法人が建物を所有する形に変わったことで、土地が貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)の要件を満たすかどうかも改めて確認が必要です。
法人化が向かないケース
- 家賃収入が少なく、法人の維持費(税理士報酬、法人住民税の均等割など年数十万円)を上回る節税効果がない
- 建物のローンが多額で、金融機関が法人への債務引受に応じない
- 建物が新しく帳簿価額が高いため、売却代金や消費税の負担が大きい
- 高齢で、法人化による効果が出る前に相続が起きる見込みが高い
法人化のメリットは「年数をかけて効く」ものです。所得税と相続税を合わせた総額で判断し、相続までの期間と家族構成を踏まえて決めてください。
法人の株式の相続
法人化すると、相続財産は「建物」ではなく「法人の株式」になります。株式は法人の純資産をもとに評価され、建物は法人の帳簿価額ではなく相続税評価額(固定資産税評価額の70%)で評価し直されるため、設立から3年を過ぎれば株式の評価は一般に低めになります。設立から3年以内は不動産を通常の取引価額で評価するため、効果が出るまでに時間がかかる点も押さえておきましょう。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。