事業用の借入金・買掛金は債務控除できる|相続人による債務引受と金融機関の手続き

個人事業主の事業用借入金や買掛金・未払金は、相続税の計算で債務控除の対象です。債務は法定相続分で各相続人に承継されるため、事業を継ぐ相続人が一人で引き受けるには金融機関の同意による免責的債務引受が必要です。控除の範囲と手続きを解説します。

個人事業には、運転資金や設備投資のための借入金、仕入先への買掛金、従業員への未払給与など、さまざまな債務がつきものです。これらは相続税の計算で遺産から差し引ける「債務控除」の対象になります。一方で、債務を誰が引き継ぐかは相続人の間で決めただけでは債権者に通用せず、別の手続きが必要です。

債務控除の対象になる事業上の債務

相続開始の時点で確実に存在する債務は、原則として債務控除の対象です。事業に関係するものでは次のような項目があります。

  • 金融機関からの事業資金の借入金(元本と相続開始日までの未払利息)
  • 買掛金、未払金、未払経費
  • 従業員への未払給与、預り金(源泉所得税・社会保険料の本人負担分)
  • 未納の所得税・消費税・事業税(準確定申告で確定する税額を含む)
  • 受け取っている保証金・敷金の返還義務(店舗を人に貸している場合)

相続人が事業を引き継いだ後に発生した経費や借入は、被相続人の債務ではないため控除できません。

控除できない・注意が必要なもの

項目 扱い
保証債務(他人の借金の連帯保証) 原則として控除不可。主債務者が弁済不能で求償もできない場合に限り控除
団体信用生命保険付きの借入金 保険金で完済されるため控除不可
確定していない支出(修繕の見積りなど) 控除不可

相続税の債務控除は借入金の使途を問わないため、借入先の残高証明書で相続開始日の残高を確認すれば足ります。

債務の承継と「債務引受」の手続き

民法上、借入金などの金銭債務は相続開始と同時に法定相続分で各相続人に分かれて承継されます。遺産分割協議で「事業用の借入金は長男がすべて引き継ぐ」と決めても、それは相続人の間の約束にすぎず、金融機関は他の相続人にも法定相続分の返済を求めることができます。

事業を継ぐ相続人が借入金を一人で引き受けるには、金融機関の同意を得て免責的債務引受の契約を結ぶ必要があります。金融機関は後継者の返済能力や事業の見通しを審査し、場合によっては新たな連帯保証人や担保を求めます。なお、相続税の申告では、遺産分割協議で決めた負担割合に従って各相続人の債務控除額を計算できるとされています。

例えば、遺産が1億円、事業用借入金が3,000万円で長男が事業と借入金を引き継ぐ場合、長男の取得財産から3,000万円を差し引いて税額を計算します。他の相続人には債務控除は生じません。

事業用の債務は、残高証明書の取得、買掛金台帳の締め、金融機関との引受交渉と、やるべきことが多岐にわたります。事業承継を伴う相続は無料相談で早めに全体像を整理することをおすすめします。

※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。

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