個人版事業承継税制の要件と対象資産|宅地400㎡・建物800㎡・減価償却資産の納税猶予の仕組み

個人版事業承継税制は、個人事業主の事業用資産(宅地400㎡まで、建物800㎡まで、機械や車両などの減価償却資産)を後継者が贈与や相続で取得した場合に、その相続税・贈与税が猶予される制度です。個人事業承継計画の提出期限、青色申告の要件、小規模宅地等の特例との選択関係を解説します。

法人向けの事業承継税制はよく知られていますが、個人事業主にも「個人版事業承継税制」があります。工場や店舗の土地建物、機械設備などの事業用資産を後継者に引き継ぐときの相続税・贈与税を猶予する制度です。この記事では、対象になる資産と要件、申請の流れ、注意点を整理します。

対象になる資産

猶予の対象は「特定事業用資産」と呼ばれ、先代の事業に使われていたもののうち、青色申告の貸借対照表に計上されていた次の資産です。

資産 範囲
宅地等 事業用の土地のうち400㎡まで
建物 事業用の建物のうち床面積800㎡まで
減価償却資産 機械・器具備品、車両、構築物、特許権などの無形資産、生物(乳牛や果樹など)。固定資産税や営業用自動車の自動車税の対象になるものなど

不動産貸付業(アパート経営・駐車場業)の資産は対象外です。また、棚卸資産や売掛金、預貯金といった流動資産も対象になりません。

主な要件

先代(贈与者・被相続人)

  • 贈与や相続の前に、その事業について青色申告の承認を受けていること(相続の場合は相続開始年の前年分について)
  • 贈与の場合は、贈与の時までに事業を廃止していること(後継者に引き継ぐため)

後継者(受贈者・相続人)

  • 贈与の日に18歳以上で、贈与の日まで3年以上その事業に従事していること(相続の場合は相続開始直前に従事。先代が60歳未満で死亡した場合などは例外あり)
  • 贈与・相続の後、開業届を提出し、青色申告の承認を受けること(見込みを含む)
  • 取得した資産を事業に使い続けること

手続き

  • 個人事業承継計画を作成し、認定経営革新等支援機関の所見を付けて都道府県に提出する。提出期限は2026年3月末までとされています
  • 贈与・相続の後、都道府県の認定を受け、申告期限までに申告書と担保の提供を行う
  • 贈与・相続の時期は2028年12月末までとされています

期限は制度改正で変わることがあるため、最新の情報をご確認ください。

小規模宅地等の特例との関係

個人版事業承継税制で宅地の猶予を受けると、同じ宅地について特定事業用宅地等の小規模宅地等の特例は使えません(選択適用)。どちらが有利かは、次のような視点で判断します。

  • 小規模宅地等の特例:400㎡まで80%減額。減額された分は確定的に税額が減り、継続要件は申告期限まで
  • 個人版事業承継税制:対象資産の相続税の全額を猶予。ただし、猶予であって免除ではなく、事業を廃止すると納税が必要。継続の管理も長期にわたる

計算例:事業用宅地(評価額8,000万円、400㎡以内)と建物・機械(合計2,000万円)を後継者が相続する場合

  • 小規模宅地等の特例:宅地は8,000万円 × 20% = 1,600万円の評価。建物・機械2,000万円は通常の課税
  • 個人版事業承継税制:宅地8,000万円+建物・機械2,000万円 = 1億円に対応する相続税が全額猶予

猶予の金額は個人版事業承継税制のほうが大きくなりますが、打切りのリスクと管理の負担を考えると、小規模宅地等の特例で十分なケースも多いです。事業の規模、後継者の年齢、将来の事業継続の見通しを踏まえて選択してください。

猶予が続く条件と免除

後継者が事業を続けている限り猶予は続き、後継者の死亡や、次の後継者への贈与で猶予を引き継いだときなどに免除されます。事業の廃止、資産の譲渡(買換えや事業の再編による一定の場合を除く)、青色申告の取消しなどがあると打切りになります。3年ごとに税務署への継続届出書の提出が必要です。

※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。

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