借金がいくらあるか分からないとき、「プラスの財産の範囲でだけ借金を引き継ぐ」限定承認は合理的な選択に見えます。しかし税金の面では、相続放棄にも単純承認にもない特有の課税があります。この記事では限定承認を選んだときの税務を整理します。
限定承認の手続きの流れ
- 自分が相続人になったことを知った日から3か月以内に、相続人全員で家庭裁判所に申述する(一人でも反対すればできない)
- 財産目録を添付する。相続人が複数なら裁判所が相続人の中から相続財産清算人を選ぶ
- 清算人は5日以内(単独相続人は10日以内)に債権者・受遺者への公告を行い、2か月以上の申出期間を設ける
- 相続財産を換価して債権者に弁済する。相続人は不動産などを家庭裁判所の選んだ鑑定人の評価額で買い取る「先買権」を使える
実際には相続人全員の足並みをそろえる必要があり、清算の負担も重いため、利用件数は相続放棄に比べると少ないとされています。
みなし譲渡所得課税とは
限定承認をすると、所得税法上、被相続人が相続開始時に財産を時価で譲渡したとみなされます。例えば30年前に1,000万円で買った土地の相続開始時の時価が4,000万円なら、差額の3,000万円が被相続人の譲渡所得となり、所得税・住民税の対象になります。
- 申告は相続人が行う準確定申告(相続開始を知った日の翌日から4か月以内)
- 計算した所得税は被相続人の債務として扱われ、相続財産の範囲で納めればよい
- 相続税では、この所得税を債務控除の対象にできる
この課税がある理由は、限定承認によって財産が時価で引き継がれる(相続人の取得費が時価に置き換わる)ためです。単純承認なら取得費は被相続人の購入価額を引き継ぎ、売却するまで課税されません。
相続税との関係
限定承認をしても相続税の計算は通常と変わりません。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数、評価も相続税評価額で行います。債務を弁済して財産が残れば、その分に相続税がかかります。財産より債務が多ければ相続税はかかりませんが、みなし譲渡の準確定申告だけは必要になる点に注意してください。
限定承認を検討する場合は、3か月の期限内に財産と債務の概算、含み益の有無を把握する必要があります。期限が迫っているなら、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てる方法もあります。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。