遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要ですが、全員が同じ日に同じ場所に集まる必要はありません。電話やメールで内容に合意し、書面に各自が署名・押印すれば協議書は成立します。相続人が海外にいる、高齢で外出できない、仕事で時間が取れないといった場合の作り方を説明します。
持ち回り方式と同文複数通方式
持ち回り方式は、1通の協議書を郵送で順番に回し、各相続人が署名・実印の押印をして次の人に送る方式です。最後の人が押印した時点で協議書が完成します。原本が1通で済む一方、郵送に時間がかかり、途中で紛失するリスクがあります。
同文複数通方式は、同じ内容の協議書を相続人の人数分(または必要な通数)作成し、各自が自分の分に署名・押印して集める方式です。全員の署名があるものを1通にまとめるのではなく、「同一内容の書面に各相続人がそれぞれ署名押印したものを合わせて1つの協議書とする」という扱いになります。
協議書の末尾に次の一文を入れておきます。
「本協議書は同文〇通を作成し、各相続人が各1通ずつ署名押印のうえ保有し、各通を合わせて1通の遺産分割協議書とする。」
複数通方式は時間が短縮できる反面、1通でも内容が異なれば無効になるおそれがあるため、作成した協議書を全員分同じデータから印刷し、修正は必ず全通に反映します。相続登記や金融機関の手続きでは、全員分の署名が揃っていることを示すため、全通をまとめて提出します。
海外在住の相続人がいる場合
海外に住んでいる相続人は、日本の印鑑証明書を取得できないことが多いため、現地の日本領事館で「署名証明(サイン証明)」を受けます。協議書を持参して領事の面前で署名し、証明書を協議書に綴じてもらう方式と、署名証明書を単独で発行してもらう方式があります。相続登記では前者が求められることが多いので、法務局の扱いを事前に確認してください。
高齢で署名できない相続人がいる場合
認知症などで判断能力がない相続人は、協議に参加できず、代わりに署名しても無効です。成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立て、後見人が協議に参加します。後見人は本人の法定相続分を確保する義務があるため、本人の取得分をゼロにする協議は認められないのが通常です。判断能力はあるが手が不自由で署名が難しい場合は、本人が押印し、署名は代筆でも認められることがありますが、公証役場で協議書を公正証書にする方が確実です。
相続税申告への添付
協議書は申告書に写しを添付し、相続人全員の印鑑証明書(海外の場合は署名証明書)の原本を付けます。期限ぎりぎりで署名が揃わないと未分割申告になるため、海外や高齢の相続人がいる場合は、申告期限の2か月前には協議書の内容を確定させておくことをおすすめします。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。