長男に事業資金2,000万円を贈与した後、遺言で「残りの財産は長男と次男で半分ずつ」と書いたとします。何も手当てしなければ、遺産分割では2,000万円を「特別受益」として遺産に持ち戻して計算するため、長男の取り分は減ります。これを避けるのが「持ち戻し免除の意思表示」です。一方で、相続税の生前贈与加算は、免除があっても関係なく行われます。民法と税法で扱いが別だという点を整理します。
持ち戻しの仕組みと免除の効果
特別受益とは、婚姻・養子縁組のための贈与や、生計の資本としての贈与(住宅資金、事業資金、高額な学費など)を指します。遺産分割では、相続開始時の財産に特別受益を加えた「みなし相続財産」を基礎に各自の取り分を計算し、受益者はその分を差し引かれます。
計算例:相続開始時の財産6,000万円、長男への生前贈与2,000万円、相続人は長男と次男。
- 持ち戻しあり:(6,000万円+2,000万円)÷2=4,000万円。長男は4,000万円−2,000万円=2,000万円、次男は4,000万円
- 持ち戻し免除あり:6,000万円÷2=3,000万円ずつ
被相続人が免除の意思表示をしていれば、贈与はなかったものとして残りを分けます。
意思表示の方法と文言例
免除の意思表示は、遺言でも生前の書面でも、明示でも黙示でも有効とされます。ただし黙示の意思表示は認定が難しく争いになるため、遺言に明記するのが確実です。
「遺言者が長男甲に対し令和〇年〇月に贈与した金2,000万円については、民法第903条第3項の持戻し免除の意思表示をする。」
なお、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与・遺贈した場合は、免除の意思表示があったものと推定されます(2019年7月以降)。
免除しても効かない2つの場面
- 遺留分の計算:持ち戻し免除があっても、遺留分の基礎財産には相続人への10年以内の特別受益が算入されます。次男の遺留分を侵害していれば、次男は侵害額を請求できます。
- 相続税の生前贈与加算:相続開始前7年以内(2024年以降の贈与から段階的に延長)の暦年贈与は、持ち戻し免除の有無にかかわらず相続税の課税価格に加算されます。相続時精算課税を選択した贈与も同様に加算されます。
民法の持ち戻しは「相続人同士の公平」の問題、税法の加算は「課税の公平」の問題で、目的も期間も異なります。
実務上の整理
遺言で持ち戻し免除をする場合、贈与の日付と金額を具体的に書いておくと、免除の対象が明確になるだけでなく、相続税申告での生前贈与の確認資料にもなります。贈与契約書と贈与税の申告書控えを合わせて保管しておくことをおすすめします。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。