いったん成立した遺産分割協議を、後から変えたいという相談があります。「やり直し」とひとくくりに言われますが、法律上は「合意解除」「法定解除」「無効・取消し」の3つに分かれ、できるかどうかも、贈与税がかかるかどうかも異なります。
3つの区別
| 区分 | 内容 | 可否 |
|---|---|---|
| 合意解除 | 相続人全員が合意して、成立した分割をなかったことにし、改めて分割する | 民法上は可能とされる |
| 法定解除 | 相続人の一人が代償金を払わないなど債務不履行を理由に、他の相続人が一方的に解除する | 認められないと解されている |
| 無効・取消し | 相続人の一部を除外して協議した、錯誤・詐欺・強迫があった、判断能力のない相続人が参加したなど | 無効または取消しが可能 |
代償金が払われなくても、分割そのものは有効なまま、支払いを求める請求しかできません。
税務上の扱い
税務では、「当初の分割が有効に成立していたか」で扱いが分かれます。
無効・取消しの場合:当初の分割は初めから効力がない(または遡って失われる)ので、改めて行う分割が本来の遺産分割です。贈与税はかからず、相続税は新しい分割に基づいて更正の請求や修正申告をします。
合意解除の場合:当初の分割は有効に成立し、各相続人は財産を取得しています。それを合意で変更すると、税務上は「相続人間で財産を移転した」と扱われ、新たに財産を取得した人に贈与税(または対価があれば譲渡所得税)が課されるのが原則です。例えば、長男が取得した評価額3,000万円の自宅を合意解除で長女に移すと、長女に3,000万円の贈与を受けたものとして贈与税の問題が生じます。
無効・取消しと認められるための資料
やり直しを贈与と扱われないためには、当初の分割が無効または取り消されるべきものだったことを示す必要があります。相続人の一人が協議に参加していなかった事実(戸籍で確認できる)、遺言書が後から発見された事実、判断能力を欠いていた診断書などが根拠になります。「気が変わった」「後で不公平に気づいた」という理由では、合意解除として贈与税の対象になります。
安全な進め方
- 分割前に、評価額と分け方を全員が十分に理解して合意する(協議を急がない)
- 代償金の不払いが心配なら、協議書を公正証書にして強制執行できるようにしておく
- やり直しを検討するときは、無効・取消し事由があるかを先に専門家に確認し、登記や払戻しの前に方針を決める
一度成立した分割は原則として動かせないものと考え、成立前に税額の試算と公平性の確認を終えておくことが、最も確実な対策です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。