相続税の申告漏れで最も多いのが、不動産でも株式でもなく「現金・預貯金」です。中でも、相続開始直前に預金から引き出した現金と、自宅で保管していたいわゆるタンス預金は、通帳に残高として現れないため計上を忘れやすく、税務署からは通帳の出金記録で確実に把握されます。整理の仕方を解説します。
税務署はどう見ているか
通帳の出金記録は、税務署が金融機関から取り寄せられる情報です。相続開始前の数年間に、生活費を超える出金(まとまった金額の引き出し)があれば、「そのお金はどこへ行ったか」が調査の出発点になります。使途が説明できなければ、相続開始時点で現金として残っていたと推定され、申告漏れとして指摘されます。
整理の手順
- 被相続人の全口座の取引履歴(少なくとも5年分)を取り寄せ、50万円以上の出金を一覧にする
- 出金ごとに使途を確認する。医療費・介護費用・リフォーム・家族への援助・納税・旅行など、領収書や記憶、家族の通帳の入金と照合する
- 相続開始の直前(おおむね1か月以内)の出金は、葬儀費用の準備や入院費など用途が明確なものを除き、原則として相続開始時点の現金とみなす
- 自宅・貸金庫・金庫にあった現金を、相続開始直後に数えて記録する(できれば日付入りの写真)
- 家族が被相続人から預かっていた現金があれば、それも被相続人の現金として計上する
- 1〜5の合計を、申告書第11表の「現金」として記載する
たとえば、亡くなる2週間前に長女が被相続人の口座から200万円を引き出し、入院費に30万円を支払い、残り170万円を手元に置いていた場合、現金として170万円を計上します。入院費の30万円のうち未払分は債務控除、支払済み分は単に財産が減っただけです。
「使った」と説明するために必要なもの
使途が家族への贈与なら、贈与の事実(贈与契約書・受け取った側の通帳)と、相続開始前3年(段階的に7年)以内なら相続財産への加算が必要です。リフォームや高額な買い物なら、請求書や領収書が裏付けになります。説明できる資料がなければ、「現金として残っていた」と整理して申告する方が、調査で指摘され加算税を払うより負担が小さくなります。
調査で避けたいこと
- 直前の引き出しについて「覚えていない」としか答えられない状態で調査を迎える
- 手元現金を「少額だから」と申告しない。数百万円単位の現金は、ほぼ確実に通帳から逆算されます
- 引き出した現金を相続人の口座に入金し、相続人の財産のように扱う(重加算税の対象になり得ます)
現金は「申告すれば終わる」財産です。評価の争いもないため、整理して正直に計上することが、調査を短く済ませる最も確実な方法です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。