「母の分の相続税は長男が一緒に払っておいた」というのはよくあることですが、税務上は注意が必要です。相続税は相続人ごとの納税義務なので、他の相続人の税額を代わりに納め、返してもらわなければ、その金額の贈与として扱われる可能性があります。立替と贈与の線引きと、記録の残し方を解説します。
贈与と判断されるのはどんな場合か
長男が母の相続税300万円を自分の預金から納付し、母がそのお金を返さなかった場合、母は300万円の経済的利益を受けたことになります。基礎控除110万円を超えるため、原則として母に贈与税がかかります。同じ年に他の贈与があれば合算されます。
逆に、母の相続税を母が取得した遺産の預金から納めるために、口座の名義変更が間に合わず長男が一時的に立て替え、後日母の口座から返金した場合は、立替であって贈与ではありません。違いは、返す約束と実際の返金があるかどうかです。
立替として扱うための記録
- 立て替える前に、誰の税額をいくら立て替えるかをメモや簡単な書面(立替金の確認書)にしておく
- 納付書は相続人ごとに分けて作り、納付した相続人の名前が領収証書に残るようにする
- 返金は振込で行い、通帳に記録を残す(現金での返金は証明が難しい)
- 返金の時期は、できれば納付から数か月以内。遺産の預金の解約手続きが遅れる場合は、解約が済み次第返金する
- 長期間返金できない場合は、金銭消費貸借契約書を作り、返済条件を決めておく
遺産の預金から納めるときの整理
被相続人の口座から各相続人の税額をまとめて納める場合も考え方は同じです。遺産分割協議書で「各相続人の相続税は、○○銀行の預金から各自の税額分を充てる」と定め、各相続人が取得した預金の一部を納税に使ったという整理にします。協議書にその記載がないと、一人が取得した預金から他の相続人の税額を払った=贈与、と見られる余地が残ります。
税務調査で見られる点
相続税の納付状況は税務署が把握しています。調査では「母の相続税はどの口座から払いましたか」と聞かれることがあり、長男の口座から出ていて返金の記録がなければ、贈与の指摘につながります。相続人間では当たり前の助け合いでも、記録がないと説明できません。
なお、相続税には連帯納付義務があるため、他の相続人が納めない場合に代わりに納めること自体は制度上も想定されています。その場合も、納めた人が本来の納税者に求償できるよう、立替の記録は同じように残してください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。