会社経営者が個人所有の土地を自分の会社に貸し、その上に会社名義の社屋や工場が建っているケースは非常に多くあります。このとき、通常の借地なら権利金をやり取りしますが、同族間ではそれを省略するために「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出していることが一般的です。この届出があると、相続税評価も特有の扱いになります。
無償返還の届出とは
借地人(会社)が将来その土地を無償で地主(個人)に返すことを約束し、地主と借地人が連名で税務署に届け出るものです。この届出により、権利金を授受しなくても借地権の認定課税(権利金相当の利益を受けたとみなす法人税の課税)を避けられます。
貸宅地の評価:自用地の80%
無償返還の届出が出ている土地を地主が亡くなって相続する場合、その貸宅地は次のように評価します。
貸宅地の評価額 = 自用地としての評価額 × 80%
たとえば自用地評価額が6,000万円なら、4,800万円です。借地権割合が60%の地域でも、70%の地域でも、一律に20%減です。通常の貸宅地(自用地 × (1 − 借地権割合))より減額幅は小さいものの、借地人が会社であることの制約を20%分だけ考慮した扱いです。
なお、届出があっても、土地の貸し借りが「使用貸借」(地代が無料または固定資産税程度)の場合は、貸宅地ではなく自用地として100%で評価します。80%評価になるのは、賃貸借として地代を受け取っている場合です。
相当の地代を払っている場合
無償返還の届出がなくても、「相当の地代」(土地の更地価額のおおむね年6%程度)を会社が払っている場合は、借地権の価額はゼロと考え、貸宅地はやはり自用地評価額の80%で評価します。
地代が相当の地代より低く、通常の地代より高い中間的な水準の場合は、その地代の水準に応じて借地権割合を調整して計算する取り扱いがあり、計算はやや複雑になります。
会社の株式評価への影響
見落とされやすいのが、借地人である会社の株式評価です。貸宅地を80%で評価した場合、残りの20%相当(自用地評価額の20%)は、借地人である会社の純資産価額の計算で借地権として加算します。地主の相続で土地を80%で評価し、同時に経営者が持つ自社株の評価では20%分が上乗せされるため、土地と株式を合わせると自用地価額の100%が相続財産に反映される仕組みです。
実務上の対応
届出書の控えが見つからない場合は、税務署に提出の有無を確認できます。届出が出ていない・地代が無料のまま・会社が建物を建てているといったケースでは、借地権の有無をめぐって評価が大きく変わる可能性があるため、生前に契約と届出を整えておくことが対策になります。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。