個人事業主が亡くなった場合、自宅や預貯金だけでなく、商品の在庫、取引先への売掛金、工場の機械、営業用の車両など、事業に使っていた財産もすべて相続税の対象です。帳簿上の金額(簿価)をそのまま使えるとは限らず、相続税独自の評価方法があります。この記事では、資産の種類ごとに評価の考え方を整理します。
棚卸資産(商品・製品・原材料)の評価
販売用の商品や製品は、原則として「販売価額から、その販売にかかる経費と適正な利益、消費税相当額を差し引いた金額」で評価します。仕入れた商品であれば、通常は仕入価額(取得価額)に近い水準になります。
- 商品・製品:販売価額 − 適正利益 − 販売経費 − 消費税相当額
- 原材料・仕掛品:仕入価額や製造原価をもとに評価
- 季節商品や型落ちで売れる見込みが低いものは、実態に応じた評価が検討できます
例えば、販売価額の合計が1,000万円、利益率が30%、販売経費が5%の商品であれば、1,000万円 − 300万円 − 50万円 = 650万円が評価の目安です(消費税相当額の調整は別途行います)。
売掛金・受取手形
売掛金や未収入金は、元本と既に発生している利息の合計で評価します。取引先が倒産して回収の見込みがないなど一定の事情があるときは、回収できない部分を評価から除けますが、「回収が難しそう」という程度では減額されません。受取手形は、支払期日までが6か月以内なら券面額、それより長ければ割引料を引いた額で評価します。
機械・器具・車両などの減価償却資産
機械、工具、備品、車両は、原則として同じものを新たに買う価格(売買実例価額や精通者意見価格)で評価します。それが分からない場合は、新品価格から相続開始時までの減価償却費(定率法)を差し引いた金額が目安になります。
| 資産 | 評価の考え方 |
|---|---|
| 営業用車両 | 中古車市場の価格が分かればその価格 |
| 機械設備 | 新品価格 − 定率法による償却額 |
| 店舗の内装・造作 | 建物の附属設備として取得価額から償却 |
帳簿上は償却が終わって1円になっている機械でも、実際に使えるなら相続税では一定の価値があると見られます。
評価のあとに使える特例
事業用の建物の敷地は、相続人が事業を引き継いで申告期限まで続ければ、特定事業用宅地等として400㎡まで80%減額できます。相続開始前3年以内に新たに事業を始めた土地は原則として対象外とされているため、最新の要件を確認してください。個人版事業承継税制による納税猶予も選択肢になります。
事業用資産は種類が多く、評価の根拠資料(棚卸表・売掛金台帳・固定資産台帳)の整理が申告の質を左右します。早めに税理士にご相談ください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。