相続で賃貸物件や個人事業を引き継いだとき、消費税をどう扱うかは見落とされがちです。相続そのものに消費税はかかりませんが、事業を引き継いだ相続人には、被相続人の売上規模をもとにした納税義務の判定があり、何もしないと課税事業者になっていることに気づかないまま申告漏れになることがあります。
相続による財産の移転は不課税
消費税は「事業者が事業として対価を得て行う取引」に課税されます。相続は対価を伴う取引ではないため、相続財産の取得に消費税はかかりません。遺産分割で代償金を支払った場合も同様です。
一方、相続した不動産を相続人が売却する場合は、建物の売却が課税取引になり得ます(土地は非課税)。相続人が課税事業者であれば、建物の売却代金に消費税の納税義務が生じます。
事業を引き継いだ相続人の納税義務
個人事業者の納税義務は、原則として前々年の課税売上高が1,000万円を超えるかで判定します。相続で事業を引き継いだ場合は、相続人自身の売上に加えて、被相続人の課税売上高も判定に使う特例があります。
| 時期 | 判定方法 |
|---|---|
| 相続があった年 | 被相続人の前々年の課税売上高が1,000万円超なら、相続のあった日の翌日から課税事業者 |
| 相続の翌年・翌々年 | 相続人と被相続人の前々年の課税売上高の合計が1,000万円超なら課税事業者 |
例:被相続人の前々年の課税売上高 1,500万円(貸店舗の家賃)、相続人は会社員で事業なし 相続があった年:相続開始日の翌日から課税事業者 翌年以降:合計1,500万円超のため課税事業者
住宅の家賃は非課税売上なのでこの判定には入りませんが、店舗・事務所・駐車場の賃料は課税売上です。相続人が複数いて事業を分けて引き継いだ場合は、引き継いだ部分に対応する売上で判定します。
インボイス登録と簡易課税は引き継がれない
被相続人が適格請求書発行事業者(インボイス登録)であっても、登録は相続人に引き継がれません。相続人が事業を続けるには、自分で登録申請を行います。相続があった日の翌日から4か月間(または相続人の登録日の前日まで)は、被相続人の登録番号をそのまま使える「みなし登録期間」があるため、その間に申請を済ませます。
簡易課税の選択も同様に引き継がれません。相続人が簡易課税を使いたい場合は、相続があった年の年末までに選択届出書を提出すれば、その年から適用できる取り扱いがあります。
実務上の対応
事業を引き継ぐ相続人は、被相続人の過去の消費税申告書と課税売上高を確認し、課税事業者になるかどうかを相続開始後すぐに判定します。届出の期限は短いため、準確定申告(4か月)と並行して進めます。判定に不安があれば無料相談でご確認ください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。