法人の事業承継税制と並んで、個人事業主向けにも納税猶予の制度があります。「個人版事業承継税制」と呼ばれ、事業用の土地・建物・設備などを後継者が引き継ぐときの相続税・贈与税を100%猶予し、後継者が事業を続ければ最終的に免除する仕組みです。2019年から2028年末までの時限措置として設けられています。
対象となる資産
猶予の対象は「特定事業用資産」で、被相続人の青色申告の決算書に載っていた次の資産です。
- 事業用の宅地(400㎡まで)
- 事業用の建物(床面積800㎡まで)
- 機械、器具備品、車両、特許権などの減価償却資産(一定のもの)
不動産貸付業や駐車場業は対象外です。これは小規模宅地等の特定事業用宅地等と同じ考え方です。
主な要件
- 被相続人が相続開始前に青色申告をしていたこと
- 後継者が「個人事業承継計画」を都道府県に提出し、確認を受けていること(提出期限は2026年3月末。延長の有無は最新の情報を確認してください)
- 後継者が相続後に事業を引き継ぎ、申告期限までに開業届を出して青色申告を行うこと
- 猶予税額に見合う担保を提供すること
- 2028年12月末までの相続・贈与であること
小規模宅地等の特例との関係
個人版事業承継税制と、小規模宅地等の特例の「特定事業用宅地等」は、同じ土地について併用できません。どちらかを選びます。
| 項目 | 個人版事業承継税制 | 特定事業用宅地等 |
|---|---|---|
| 効果 | 土地・建物・設備の税額を100%猶予 | 土地の評価を80%減額 |
| 継続要件 | 事業を続ける限り(3年ごとの届出) | 申告期限まで |
| 打ち切りリスク | 事業廃止・資産の譲渡で猶予税額+利子税 | 申告期限後は自由 |
| 事前手続き | 承継計画の提出が必要 | 不要 |
小規模宅地等の特例は申告期限を過ぎれば自由に処分でき、手続きも簡単です。一方、事業承継税制は建物や設備も対象になり、猶予割合も大きい反面、事業を続ける限り管理が続きます。土地の評価額が大きく、建物や設備の価額も高い事業では事業承継税制が有利になり得ますが、将来の廃業の可能性も考慮して選びます。
猶予の免除と打ち切り
後継者が死亡したとき、または次の後継者に贈与して猶予を引き継いだときに免除されます。事業を廃止した場合や、資産を事業以外に使った場合は打ち切られます。ただし、事業用資産を買い替えた場合は、一定の手続きで猶予を続けられます。
個人事業の承継では、承継計画の提出が第一歩です。期限を過ぎると使えなくなるため、承継を考えている方は早めに検討してください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。