「預金はすぐに分けて納税資金にしたいが、不動産の分け方はまだ決まらない」。こうした場合、遺産の一部だけを先に分割する「一部分割」ができます。民法でも、相続人は遺産の一部についてのみ分割協議や調停・審判を求めることができると定められています。協議書は財産ごとに複数作って構いません。
一部分割の協議書の書き方
先に分ける財産を明確に特定し、残りの財産は未分割であることを書いておくのがコツです。
「相続人全員は、被相続人の遺産のうち下記の預貯金について、次のとおり分割することに合意した。本協議書に記載のない遺産については、別途協議するものとする。」
この一文がないと、「残りの財産は放棄したのか」「後日判明した財産の条項と同じ扱いか」といった疑問が生じます。2通目以降の協議書には「令和〇年〇月〇日付遺産分割協議書に続き」と、先行する協議書との関係を書いておくと整理しやすくなります。
なお、一部分割を先にすることで残りの財産の公平な分割が難しくなる場合(例えば、預金を全部先に分けてしまい、不動産しか残らないのに代償金が必要になる場合)は、家庭裁判所は一部分割の審判を認めないことがあります。協議で行う場合も、全体のバランスを見ておく必要があります。
相続税申告は「分割済み」と「未分割」の組み合わせ
申告期限までに一部だけ分割された場合、申告書では次のように扱います。
| 財産 | 申告の方法 |
|---|---|
| 分割済みの預金 | 協議書どおりの取得者・金額で記載 |
| 未分割の不動産 | 法定相続分で取得したものとして記載 |
未分割部分については「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。後に不動産の分割が決まったら、更正の請求(分割の日の翌日から4か月以内)や修正申告で精算します。
実務上の使いどころ
一部分割が役立つのは、次のような場面です。
- 納税資金の確保のため預金を先に分けたい
- 相続人の一人が海外にいて、不動産の協議に時間がかかる
- 自社株の評価に時間がかかるが、他の財産は早く分けたい
一方、協議書が複数になると、金融機関や法務局に提出する際に全体像の説明が必要になり、印鑑証明書も複数回求められることがあります。先に分けた財産と後の財産で取得者が偏ると、後の協議で不満が出やすい点にも注意してください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。