相続人の一人が自己破産している。「どうせ債権者に取られるから、その人の取り分はゼロにしよう」と考えがちですが、そうした遺産分割は後から覆されるおそれがあります。この記事では破産している相続人がいる場合の分割のルールと相続税の扱いを解説します。
相続と破産の時期の関係
破産者が相続で取得する財産が債権者への配当の対象になるかは、相続開始と破産手続開始の前後で決まります。
| 時期の関係 | 相続財産の扱い |
|---|---|
| 破産手続開始の前に相続が開始 | 破産財団に属し、破産管財人が管理・換価する |
| 破産手続開始の後に相続が開始 | 新得財産として破産者の自由財産になり、配当の対象外 |
| 免責決定の確定後に相続が開始 | 破産者が自由に取得できる |
破産手続開始前に相続が開始していた場合、破産管財人が遺産分割協議に参加し、破産者の相続分を確保しようとします。協議が整わなければ管財人が調停や審判を申し立てることもあります。
また、破産手続中に相続放棄をした場合、破産法上は原則として限定承認の効力しか持たないとされ、管財人が相続財産をプラスの範囲で財団に組み入れることができます。放棄で債権者から財産を隠すことはできない仕組みです。
「取り分ゼロ」の協議はどうなるか
破産者本人が協議に参加して、自分の取り分をゼロにする遺産分割に合意することは、法律上は可能です。しかし次のリスクがあります。
- 破産手続開始前の協議であれば、管財人が否認権を行使して取り消す可能性がある
- 破産手続外でも、債権者が詐害行為取消権(民法424条)を行使し、分割を取り消す判例がある
- 他の相続人が受け取った財産を返還させられ、協議がやり直しになる
したがって、破産している相続人がいるときは、法定相続分に近い取り分を確保した上で、他の相続人がその分を代償金で支払うなど、合理的な理由のある分け方にすることが安全です。
相続税の納税義務
相続税は財産を取得した人が納める税金で、破産者が財産を取得すればその人が納税義務者です。管財人が財産を換価して配当する場合でも、相続税は破産者の債務として、財団債権または破産債権として処理されます。
注意したいのは連帯納付義務です。破産者が相続税を納められない場合、他の相続人が自分の取得した利益の範囲で代わりに納める義務を負います。免責を受けた破産者の相続税は免責の対象になりえますが、他の相続人の連帯納付義務は残るとされているため、分割の段階で破産者の納税資金を確保しておく(現金を取得させる)ことが現実的な対策です。破産手続中の相続は法律と税の両面の判断が必要なので、管財人・弁護士と税理士が連携して進めることをおすすめします。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。