「全財産を長男に」という遺言があるが、長男自身が「兄弟で平等に分けたい」と考えている。遺言は絶対に守らなければならないのでしょうか。この記事では、遺言と異なる遺産分割ができる条件と、その場合の相続税・贈与税の扱いを解説します。
遺言と異なる分割ができる条件
遺言は被相続人の最後の意思ですが、財産を受け取る側全員が別の分け方に合意するなら、遺言と異なる遺産分割は有効とされています。必要な同意は次のとおりです。
- 相続人全員の合意
- 受遺者(相続人以外に遺贈を受けた人)がいる場合、その人の同意または遺贈の放棄
- 遺言執行者がいる場合、原則としてその同意(執行者は遺言どおりに執行する義務があるため)
- 遺言で遺産分割が禁止されていない(最長5年の分割禁止が可能)
相続人以外への遺贈があるときは、受遺者が放棄するか同意しない限り、その財産について相続人だけで分け方を変えることはできません。特定遺贈の放棄はいつでも可能で、放棄された財産は相続財産に戻って協議の対象になります。
相続税の扱い
遺言と異なる分割をした場合でも、相続税は実際に取得した内容に基づいて計算します。遺言どおりの申告をしてから改めて分け直すのではなく、最初から協議の内容で申告すれば足ります。
例えば「全財産1億2,000万円を長男に」という遺言があり、長男・次男・三男が協議して4,000万円ずつ分けた場合、各人の課税価格は4,000万円で、長男から次男・三男への贈与とは扱われません。相続人同士の協議による分割は、相続による取得として処理されるためです。
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減も、協議で取得した人を基準に適用します。遺言では特例の要件を満たす人が取得する内容になっていなかった場合に、協議で変更して特例を使えるようにすることも可能です。
贈与税が問題になるケース
次の場合は、相続ではなく贈与として扱われる可能性があるため注意が必要です。
- 遺言どおりに相続登記や預金の解約を済ませた後に、財産を他の相続人に移した場合(分割のやり直しとみなされる)
- 相続人以外の受遺者が、遺贈を受け取った後にそれを相続人に渡した場合
- 包括遺贈を受けた相続人以外の人が、協議で取り分を減らして相続人に譲った場合(相続分の譲渡と同様の扱いになり、無償なら贈与の問題が生じうる)
遺言と違う分け方をするなら、名義変更の前に協議書を作り、申告も協議の内容で行うのが原則です。手続きの順番を誤ると数百万円の贈与税が生じかねないため、遺言と異なる分割を考えている段階で税理士に確認してください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。