相続人の一人がアメリカやシンガポールに住んでいる。この場合、遺産分割協議書の押印、不動産の登記、相続税の申告と納税のそれぞれで、国内に住む相続人とは違う書類が必要になります。この記事では、必要書類と手続きの流れを順に解説します。
印鑑証明書の代わりになる「サイン証明」
日本の住民登録を抜いて海外に住む相続人は、印鑑登録ができないため印鑑証明書を取れません。遺産分割協議書の真正を証明するために、滞在国の日本大使館・領事館で**署名証明(サイン証明)**を取得します。
- 相続人全員の合意内容を記載した遺産分割協議書を作成し、海外の相続人に送る
- 海外の相続人が在外公館に出向き、領事の面前で協議書に署名・拇印する
- 領事が署名証明を協議書に綴じ合わせる「貼付型」で発行してもらう(単独の証明書で発行する「単独型」もあるが、登記では貼付型を求められることが多い)
- 原本を日本に返送する
在外公館は予約制のところが多く、遠隔地に住んでいれば往復に日数がかかります。協議書の内容を確定してから署名までに1か月程度を見込んでください。
住所を証明する「在留証明」
相続登記で海外在住者が不動産を取得する場合、住民票の代わりに在外公館発行の在留証明が必要です。滞在国に3か月以上滞在していることなどが要件で、パスポートと現地の住所を示す資料(公共料金の請求書、賃貸契約書など)を持参して申請します。日本国籍を失っている場合は、現地の公証人による宣誓供述書を使います。
預貯金の解約や証券口座の移管でも、金融機関ごとに本人確認書類が異なります。事前に各機関へ必要書類を照会しておくと、二度手間になりません。
納税管理人の届出と申告・納税
海外居住の相続人も、取得した財産が国内にあれば日本で相続税の申告義務があります。本人が日本に来て手続きをしない場合は、国内に住む親族や税理士を納税管理人に選び、税務署に届け出ます。
- 「相続税・贈与税の納税管理人届出書」を、海外の相続人の納税地を所轄する税務署に提出する
- 納税地は原則として被相続人の最後の住所地
- 届出後は、申告書の提出、税務署からの書類の受領、納税を納税管理人が行う
- 納税は国内の金融機関からの振込みが一般的。海外送金で日本円を用意する日数も考慮する
海外の相続人はマイナンバーがないため、申告書には記載不要です。申告期限の10か月は国内の相続人と同じで、海外にいることを理由とする延長はありません。書類の往復に時間がかかるため、早めに段取りを組むことが大切です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。