相続直前に会社へ大きな資金を入れて株式の評価を下げる対策について、東京高等裁判所が2025年(令和7年)6月19日、課税庁の主張を全面的に認める判決を出しました。結論を先に書くと、通達どおりに計算した評価でも、相続税を減らす目的だけで相続直前に資産の形を変えた場合は、「著しく不適当」として時価で課税されることがあるという判断です。納税者は上告しており、最高裁の判断が待たれます。
事案の概要
報道・解説(PwC Legal Tax Newsletter 2026年2月ほか)によると、事案は次のようなものです。
- 89歳だった父が、亡くなる2か月前に、実子2人だけが株式を持つ会社の第三者割当増資に応じ、約36億円を払い込んだ
- 相続人(実子)は、相続した株式を財産評価基本通達の定める類似業種比準価額と純資産価額の「併用方式」で評価して申告した
- 課税庁は総則6項を適用し、純資産価額方式で評価すべきだとして更正処分を行った
一審の東京地裁(令和7年1月17日)は納税者の主張を認めましたが、高裁はこれを取り消しました。
高裁が決め手にしたこと
解説によると、高裁は、この増資が「株式保有特定会社」や「比準要素数1の会社」に当たらないようにするための仕組みだったと認定しました。これらに当たると純資産価額方式で評価され、評価額が高くなるため、増資によって類似業種比準方式が使える形に整えたとみたのです。さらに、証券会社との相談内容が相続税対策だけだったことに踏み込み、税負担を減らす意図で新株を発行したと判断しました。
2022年(令和4年)4月の最高裁判決(相続直前の借入れによるマンション購入)と同じく、「通達どおりの評価と実際の価値に大きな差があり、その差が租税負担を減らす意図で作られた」ことが基準になっています。
実務で気を付けること
- 相続直前の大きな資産の組み替えは、目的の説明が問われる:増資・不動産の購入・借入れなどは、事業上の理由や生活上の必要があるかが見られます
- 「通達どおり」は安全を保証しない:評価明細書の計算が正しくても、総則6項で覆る余地があります
- 記録が証拠になる:金融機関や証券会社との相談の記録まで判断材料にされました。対策の経緯は、税以外の目的も含めて残しておくことが大切です
総則6項の仕組みはこちらの記事で解説しています。
まとめ
東京高裁の判決は、相続直前に税負担の軽減だけを目的として会社の資産構成を変えた場合、通達どおりの評価が否認されうることを改めて示しました。上告されているため最終的な結論はこれからですが、自社株の対策は時間をかけて事業上の理由とともに進めることが、結果として安全です。自社株の評価と対策は当センターにご相談ください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。