「父の投資信託を、相続人の一人が自分の相続分だけ解約して受け取れないか」という相談があります。結論から書くと、最高裁判所は平成26年(2014年)2月25日の判決で、投資信託の受益権と個人向け国債は、相続開始と同時に法定相続分で自動的に分かれるものではなく、遺産分割の対象になると判断しました。 相続人全員で分け方を決めるまで、一人だけで解約や換金はできません。
判決の内容
被相続人が持っていた投資信託(委託者指図型投資信託)の受益権と個人向け国債について、相続人の一人が「自分の法定相続分は当然に自分のものになった」として、証券会社や国に対して自分の分の権利を主張した事案です。最高裁は次のように判断しました。
- 投資信託の受益権は、口数を単位とする権利で、償還金や収益分配金の請求権のほかに、信託の監督的な権利も含む一体の内容を持つ。性質上、相続開始と同時に当然に分割されるものではない
- 個人向け国債は、額面1万円単位でしか権利の行使ができないため、法定相続分で分けると単位未満の端数が生じ、当然に分割されるとは解されない
預貯金については、この判決の2年後、平成28年12月19日の大法廷決定で同じように「遺産分割の対象」と判断されました。預貯金は遺産分割の対象。金融資産の多くは、相続人全員の合意が無いと動かせない、という考え方で揃っています。
証券会社での手続き
- 相続人全員の署名・実印のある遺産分割協議書(または遺言)と、戸籍一式、印鑑証明書が要ります。相続人全員の同意書で代表相続人の口座にいったん移管し、その後に売却して分ける方法もあります
- 相続開始後に支払われた収益分配金や償還金は、分割が決まるまで証券会社が預かる形になり、これも遺産分割の対象になります
- NISA口座の投資信託は相続人の課税口座に移管され、相続時の価額が取得費になります
相続税申告での扱い
分割が決まらなくても、相続税の申告期限(10か月)は延びません。投資信託と国債は相続開始日の価額で評価し(投資信託は基準価額から解約手数料や源泉徴収相当額を引いた額、個人向け国債は額面に経過利子を加え中途換金調整額を引いた額が目安)、未分割の財産は法定相続分で取得したものとして申告します。分割が決まった後に、配偶者の税額軽減などを使って更正の請求や修正申告をします。
実務での考え方
- 証券会社ごとに手続きの書式が違うので、口座のある証券会社を早めに洗い出します。取引残高報告書や郵便物が手がかりです
- 値動きのある資産は、分割協議が長引く間に価額が変わります。評価は相続開始日で固定されるので、売却した時点の価額との差は譲渡所得の問題になります
- 遺言で受取人を決めておけば、相続後すぐに手続きが進みます
まとめ
投資信託と個人向け国債は、最高裁 平成26年2月25日判決により遺産分割の対象で、相続人の一人が自分の分だけ解約することはできません。証券会社の手続きには相続人全員の書類が要り、分割が決まらなくても相続税の申告期限は延びません。金融資産が多い相続は、口座の洗い出しと分け方の合意を早めに進めてください。初回相談は無料です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。