相続放棄が増えています。最高裁判所の司法統計によると、家庭裁判所への相続放棄の申述は2023年(令和5年)に約28万件と過去最多になり、10年前の約1.6倍です。背景には、遠方の実家や山林を引き継ぎたくない、亡くなった親の借金の有無が分からない、きょうだいの一人に財産をまとめたい、といった事情があります。放棄は一度すると撤回できないので、決める前に次の点を確かめてください。
放棄で手放すもの・残るもの
- 手放すもの:すべての財産と債務。プラスの財産だけを選ぶことはできません。放棄した人は初めから相続人でなかったものとして扱われ、次の順位(父母→兄弟姉妹)に相続権が移ります
- 残るもの:受取人として指定された生命保険金・死亡退職金は放棄しても受け取れます。ただし相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は、放棄した人には使えません
- 管理責任:放棄した時点で実家に住んでいるなど現に占有している場合は、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存義務が続きます(2023年4月改正)。放棄すれば空き家の責任がすぐ消えるわけではありません
相続税の計算への影響
- 基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の人数は、放棄がなかったものとして数えます。放棄で基礎控除が減ることも増えることもありません
- 放棄した人が生命保険金を受け取ると、その人は相続税の申告・納税の対象になります。放棄したときの相続税の扱いは別の記事にまとめています
- 兄弟姉妹に相続権が移って取得すると、相続税は2割加算の対象です
放棄する前に確かめること
- 期限:自分のために相続があったと知った時から3か月。財産調査に時間がかかるときは家庭裁判所に伸長を申し立てる
- 財産の処分をしない:預金の解約や遺産の売却をすると単純承認とみなされ、放棄できなくなることがあります。葬儀費用を遺産から出す程度は通常問題ありません
- 借金が不明なら限定承認も検討:相続人全員で行う必要がありますが、プラスの範囲で債務を引き継ぐ方法です。限定承認の税務には注意点があります
- 土地だけ手放したいなら:放棄は財産全体が対象です。預金は受け取り、要らない土地だけ手放すなら相続土地国庫帰属制度や自治体・隣地への売却を先に検討します
- 次の相続人への連絡:放棄で相続権が移る親族(兄弟姉妹・甥姪)に知らせないと、その人が期限を過ぎてから債権者の請求で知ることになります
放棄するか、受け取って相続税を払うかは、財産の一覧と債務が分かってから決めるものです。預金・不動産・保険の全体像を10か月の申告期限から逆算して整理するところから、初回相談(無料)でお手伝いしています。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。