「父のアパートに借入が1億円残っている。相続税はどうなるのか」。不動産オーナーの相続で最初に聞かれる質問です。結論から書くと、相続開始時点のアパートローンの残高は、相続財産から差し引けます(債務控除)。アパートの評価額より借入のほうが大きければ、その差額は預金など他の財産からも引けます。ただし、団体信用生命保険(団信)付きのローンは例外です。
債務控除の基本
- 控除できるのは、相続開始の時点で確実にある債務。アパートローンの元本残高と、相続開始日までの未払利息が対象です
- 控除するのは、その債務を引き継いだ相続人。遺産分割で「アパートを長男、借入も長男」とした場合、長男の課税価格から引きます。債務控除の基本は別の記事にまとめています
- 相続人の間で「借入は長男が負担する」と決めても、金融機関に対しては全員が法定相続分で責任を負います。金融機関との間で債務引受の手続きが必要です
団信付きローンは引けない
アパートローンに団信が付いていると、死亡時に保険金でローンが完済されます。借入は消えるので、債務控除はできません。一方で、アパートの建物・敷地の評価はそのまま相続財産に残ります。「借入でアパートを建てたのに、相続税の計算では借入がない」状態になり、想定より相続税が増えることがあります。団信の有無は、対策の試算の前に必ず確認する項目です。
借入でアパートを建てると、なぜ相続税が下がるか
- 建物は固定資産税評価額(建築費の5〜6割程度)で評価され、貸していれば借家権割合30%を引いた7割になる
- 敷地は貸家建付地として、借地権割合60%の地域なら自用地の82%になる
- 借入の残高は債務控除で引ける
たとえば自用地1億円の土地に、借入1億円でアパートを建てると、土地8,200万円+建物3,850万円(固定資産税評価5,500万円×70%)−借入1億円=2,050万円。対策前の1億円から、課税対象は大きく下がります。建築の効果を数字で見る記事も参考にしてください。
損益分岐:相続税の減少額と30年の収支を並べる
評価が下がるのは事実ですが、それは「相続税がいくら減るか」の話で、「家族が得をするか」とは別です。試算では次の2つを並べます。
- 相続税の減少額:対策前後の相続税の差(上の例で遺産総額2億円・子2人なら、数百万円から1,000万円台)
- 30年の収支:家賃収入−返済−固定資産税−修繕−空室損。家賃の下落(10年で1割など)と金利上昇を入れた保守的な計算で、30年後の残債と建物の価値を比べる
相続税が1,000万円下がっても、30年の累計収支が赤字なら、子どもに渡すのは財産ではなく負担です。逆に収支が十分に黒字なら、相続税の減少は「おまけ」として評価できます。
令和8年度改正で「直前に借りて建てる」は効かない
2027年1月1日以後に取得した貸付用の不動産は、相続開始前5年以内であれば時価の8割で評価されることになりました(改正の内容)。借入で建てる対策は、5年以上先を見た収支計画があって初めて成り立ちます。
当センターは、ハウスメーカーや賃貸住宅の建設会社からの依頼でオーナー向けの試算と勉強会を行ってきました。建築を勧める立場ではなく、建てた場合・建てない場合・売った場合を並べて数字を出します。初回相談は無料です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。