「社長名義の工場を会社に買い取らせて、個人の財産を減らしたい」という相談を受けます。結論から書くと、会社が社長から不動産を買っても、社長の手元に代金が残れば相続財産は減らず、むしろ路線価評価だった土地が現金(額面)に変わる分だけ増えることがあります。効果が出るのは、家賃収入を会社に移す、役員借入金と相殺する、といった形にしたときです。
時価で売買しなければならない
社長と会社は特殊な関係にあるため、売買価額は第三者と同じ時価が求められます。
- 時価より安く売ると、差額は会社の受贈益(法人税の課税対象)になります。時価の2分の1未満なら、社長は時価で売ったものとみなして譲渡所得を計算します(個人から法人への低額譲渡)
- 時価より高く売ると、超えた部分は会社から社長への役員給与(損金不算入)と扱われます
- 時価は不動産鑑定評価、近隣の取引事例、路線価÷0.8などを組み合わせて根拠を残します
社長側・会社側の税金と株式評価
社長には、売却益(代金-取得費-譲渡費用)に対し、所有5年超なら20.315%の譲渡所得税がかかります。先代から相続した土地で取得費が分からないときは代金の5%が取得費になり、ほぼ全額が課税対象です。建物については、社長が賃貸業で課税事業者なら消費税の課税取引になります。会社側は次のとおりです。
- 不動産取得税(固定資産税評価額の3〜4%。宅地は課税標準が2分の1)と登録免許税(固定資産税評価額の2%。土地は軽減措置あり)がかかります
- 株式の評価では、取得後3年以内の土地建物は時価で評価します。借入で買えば資産と負債が同額増えるだけで、株価は3年間下がりません。3年経過後に路線価・固定資産税評価額に切り替わり、差額分だけ純資産価額が下がります
相続税への効果は「代金の形」で決まる
| 代金の払い方 | 社長の財産の変化 |
|---|---|
| 銀行借入で現金一括 | 土地(路線価)が現金(額面)に。財産は減らない |
| 分割払い(未払金) | 未収入金として額面で相続財産に。回収前に相続が起きると減らない |
| 役員借入金との相殺(代物弁済) | 額面で評価される貸付金が消え、財産が減る |
役員借入金が多い会社では、相殺の形が最も効果的です。ただし代物弁済も譲渡なので、社長の譲渡所得税は同じようにかかります。現金で受け取った場合は、その後の生前贈与や納税資金の準備に充てて初めて意味が出ます。
法人に移す前に確認すること
移転コストは、売買代金の5〜8%程度になることが多く、法人に不動産を移す対策で効果が出るまでには年数がかかります。社長の年齢、家賃収入の額、役員借入金の残高、会社の資金力を並べて、移す・移さないを決めます。当センターでは、移転前後の相続税額と株式評価の変化を試算してからご提案しています。相続税申告は基本報酬99,000円(税込・遺産総額4,000万円まで)から、非上場株式の評価は1社110,000円(税込)から、初回相談は無料です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。