結論から書くと、相続税がかかった財産に、受け取るときにもう一度所得税をかけることはできないと最高裁が判断した事件です。死亡保険金を年金で受け取ると、今も毎年の年金の一部に所得税がかかりますが、その計算の仕組みはこの判決から生まれました。
事案の概要
最高裁第三小法廷 平成22年(2010年)7月6日判決(民集64巻5号1277頁)の事案は次のとおりです。
- 夫が亡くなり、妻は夫が保険料を払っていた生命保険の死亡保険金を、一時金ではなく「毎年230万円を10年間」の年金で受け取ることになった
- 妻は、年金を受け取る権利(年金受給権)を相続税の対象として申告した。当時の相続税法の評価方法で、年金の総額2,300万円の6割、1,380万円で評価した
- 1年目に受け取った230万円について、税務署は雑所得として所得税を課税した。妻は「相続税がかかったものに所得税をかけるのは二重課税だ」と争った
一審の長崎地裁は妻の主張を認めましたが、福岡高裁は逆転して課税を認め、最高裁で再び逆転しました。
最高裁の判断
所得税法には「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」(相続税・贈与税の対象になるもの)は所得税を課さないという規定があります(判決当時は9条1項15号、今は17号)。最高裁は、この規定の趣旨を相続税・贈与税の対象になる経済的価値に、重ねて所得税をかけないことだと解しました。
そのうえで、年金受給権は相続税の対象になった財産で、1年目の年金はその受給権を具体化したもの(相続税の評価額に含まれる元本部分)にすぎないとして、1年目の230万円への所得税の課税を取り消しました。それまでの課税実務を否定する判断でした。
判決のあと変わったこと
- 所得税の計算方法の改正:2010年に所得税法施行令が改正され、相続した年金は「相続税の評価額に相当する部分は非課税、それを超える運用益の部分だけ課税」になりました。受取期間の前半は非課税部分が大きく、後半ほど課税部分が増える計算です(相続した年金の雑所得の計算)
- 過去の分の還付:判決の考え方で納めすぎになっていた過去の所得税は、特別還付金の制度で、法律上の期限を過ぎた年の分も還付されました
- 年金受給権の評価方法の改正:「残りの期間で6割」のような評価は時価より低すぎたため、2010年度の改正で、解約返戻金の額・一時金の額・予定利率で割り引いた額のうち大きい方などで評価する方法に改められました(年金受給権の種類と評価)
実務で気を付けること
死亡保険金を一時金で受け取るか年金で受け取るかは、相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の使い方や、毎年の所得税・住民税、国民健康保険料にも影響します。保険会社から届く「年金支払明細」の課税部分を確認し、確定申告が必要かどうかを毎年確かめてください(年金形式で受け取るとき)。
当センターでは、保険金の受け取り方を含めて相続税と受け取ったあとの税金をまとめて試算します。相続税の申告は基本報酬99,000円(税込)から、初回相談は無料です。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。