「親のアパートの家賃が毎年500万円たまっていく。相続税が増える一方なので、収入ごと子に移せないか」。不動産オーナーの生前対策で、よく使われる方法が建物だけの贈与です。結論から書くと、古いアパートの建物は贈与税の評価が低く、贈与すれば家賃収入はその日から子のものになります。土地は親のまま残せます。ただし、敷金の扱いを間違えると評価が時価になります。
仕組み
- 建物を子に贈与すると、賃貸借契約の貸主は子になり、家賃は子の収入になる(親の財産が増えなくなる)
- 土地は親が持ち続け、子は土地を無償で借りる(使用貸借)。親の土地に子の家と同じで、使用貸借なら借地権の贈与にはならない
- 建物の贈与税評価は、固定資産税評価額×70%(貸家)。築30年の木造アパートなら、固定資産税評価額が数百万円、評価は数百万円以下になることも多い
贈与税の計算
- 評価額が110万円を超える部分に贈与税がかかります。例:固定資産税評価額800万円×70%=560万円 → 基礎控除後450万円に対し、子(18歳以上)への贈与なら税額48万5,000円
- 相続時精算課税を選べば2,500万円まで贈与税はかからず、相続時に贈与時の評価額(560万円)で加算されます。贈与後の家賃は加算されないので、収入の移転の効果はそのまま残ります
- 登録免許税(固定資産税評価額の2%)と不動産取得税(3%、住宅用建物)がかかります
土地の評価はどうなるか
贈与後、土地は親が持ち、建物は子のもの。本来、使用貸借の土地は自用地評価ですが、贈与の時点の入居者が贈与後も続いている限り、土地は貸家建付地として評価してよい取扱いがあります。入居者が入れ替わると、その部屋の分は自用地評価に戻ります。土地の評価が時間とともに上がっていく点は、対策の前に押さえておきます。小規模宅地等の特例(貸付事業用)は、親が地代を取らない使用貸借では使えなくなります。
敷金で「負担付贈与」にしない
入居者から預かっている敷金の返還義務を建物と一緒に子に移すと、「債務を負担させる贈与(負担付贈与)」になり、建物の評価が相続税評価額ではなく時価になります。評価の低さという利点が消えます。実務では、敷金相当額の現金を建物と同時に子に渡すことで、負担付贈与にあたらない形にします。贈与契約書に、建物と敷金相当額の現金を贈与し、子が敷金の返還義務を引き継ぐ旨を書きます。
向いている物件・向かない物件
- 向いている:築古で建物の評価が低く、家賃収入が安定している物件。借入が残っていない物件
- 向かない:借入が残っている物件(借入も移すと負担付贈与になる)、近く建て替えや売却を予定する物件、固定資産税評価額が高い新しい建物
贈与後は、子が不動産所得の確定申告をします。入居者への貸主変更の通知、振込先の変更、火災保険の名義変更も必要です。当センターでは、建物贈与の効果(親の財産の増加の抑制と相続税の減少)と、土地評価の変化、精算課税を使うかどうかを試算してからお勧めしています。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。