「アパートが完成して2か月。まだ半分しか入居が決まっていないうちに父が亡くなった」。建築による相続対策で最も避けたい状況です。結論から書くと、相続開始時に入居者がいない部屋は貸家として評価されず、その分の敷地も自用地のままです。建築前に見込んでいた評価減の多くが、まだ効いていない状態で相続が起きます。
完成済み・入居者募集中の場合
- 入居済みの部屋:貸家(固定資産税評価額×70%)、敷地は貸家建付地
- 募集中の部屋:自用家屋(固定資産税評価額のまま)、敷地は自用地
- 賃貸割合=入居済み部屋の床面積÷全体の床面積。10室中5室入居なら50%です。一時的な空室の取扱いは「継続して貸されてきた部屋が一時的に空いた」場合の話で、一度も貸していない新築の部屋には使えません
- 完成直後で固定資産税評価額がまだ付いていない建物は、建築費などから固定資産税評価額に相当する額を見積もって評価します
工事中に相続が起きた場合
建築中の建物は「費用現価(相続開始日までに投じた建築費を相続開始時の価額に引き直した額)×70%」で評価し、敷地は自用地です。借入があれば債務控除、建築会社への未払金も債務控除になります。評価減の効果は「建物が7割で評価される」部分だけで、貸家・貸家建付地の減額はまだありません。
小規模宅地等の特例:3年ルール
相続開始前3年以内に新たに貸付を始めた宅地は、貸付事業用宅地の50%減額の対象外です。例外は、亡くなった方が3年を超えて事業的規模(5棟10室が目安)で貸付事業を続けていた場合で、その場合は新しい物件も対象になります。はじめての賃貸経営で建てた直後の相続は、この減額も使えません。
令和8年度改正の影響
2027年1月1日以後に取得した貸付用不動産を相続開始前5年以内に相続した場合、建物・敷地は時価の8割で評価されます(改正の内容)。新築直後の相続は、満室であっても評価減が大きく縮むことになります。
対策の順番
- 入居を急ぐ:家賃を相場より下げてでも、相続前に満室に近づける。賃貸割合がそのまま評価に効きます
- 建てる時期を前倒しする:高齢になってからの建築は、3年ルールと5年ルールの両方にかかります。建てるなら早く、建てないなら建てないと決める
- 団信・借入の確認:団信付きの借入は債務控除できません
- 納税資金:建築費を預金で払っている場合、評価減が効く前に相続が起きると、相続税の納税資金が不足します。預金を残す計画にします
当センターでは、建設会社からの依頼で建築前・建築直後・満室後の3時点の相続税を並べた試算を行っています。建築の判断は、評価減が効くまでの期間を含めて考えてください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。