「会社が自宅を買い取れば、個人の財産が減って相続税が安くなる」という提案を受けたという相談があります。結論から書くと、同居の家族が自宅を相続できる家庭では、特例を失う損失のほうが大きく、不利になることが多い対策です。向いているのは、特例を使える相続人がいない場合や、会社が本店として使う場合に限られます。
株式評価が下がる仕組み
会社が借入で時価1億円の自宅を買うと、会社の資産に不動産1億円、負債に借入金1億円が並びます。3年を過ぎると純資産価額方式で不動産が路線価・固定資産税評価額(例:6,500万円)に置き換わり、負債は1億円のままなので純資産が3,500万円下がります。一方、社長の手元の1億円は現金として額面で財産に残ります。
- 自宅(個人、相続税評価6,500万円)→現金1億円:財産は3,500万円増える
- 株式:3年後に3,500万円下がる
- 差し引きの効果は、3年経過後にようやくゼロに近づき、それ以上の効果は現金を使ってからの話
つまり「借入で不動産を買う」対策を会社の中で行うのと同じで、自社株の評価を下げる方法の一つにすぎません。
失うもの
| 個人名義なら使えたもの | 会社名義にすると |
|---|---|
| 小規模宅地等の特例(特定居住用、330㎡まで80%減額) | 使えない。土地が株式の中に自用地評価で入る |
| 居住用財産の3,000万円控除(売却時) | 会社には適用がない。社長が会社に売る時点でも、同族会社への譲渡には適用されない |
| 配偶者が取得すれば配偶者の税額軽減で無税になりやすい | 株式の一部として評価 |
自用地評価額6,000万円の土地に特例を使えば1,200万円で済むところ、会社名義では6,000万円(含み益の37%控除は別)で評価されます。この差だけで、株式評価が下がる効果を上回ることがほとんどです。
社長側・会社側の負担
- 社長の譲渡所得税:自宅の売却益に対し、同族会社への売却では3,000万円控除が使えず、所有5年超なら20.315%
- 会社:登録免許税・不動産取得税、以後の固定資産税と修繕費。社宅家賃を社長が会社に払う(小規模住宅なら月数万円、床面積240㎡超などの豪華社宅なら相場家賃)
- 相続後:遺族が住み続けるには相場家賃の賃貸借が必要(会社名義の社長の自宅)
向くケース・向かないケース
向くケース
- 配偶者・同居親族がおらず、別居の子も持ち家で、特定居住用の特例が使えない
- 会社に余剰資金があり借入をしない。自宅の一部を本店・事務所として実際に使う
- 自宅の相続税評価が時価に近く(評価減が小さい)、株式を後継者に贈与で移していく計画がある
向かないケース
- 配偶者や同居の子が自宅を相続する予定(特例と配偶者の税額軽減で、個人のままでも税負担はほぼ生じない)
- 借入で買い、3年以内に相続が起きる可能性がある
- 数年内に自宅を売る、または建て替える予定がある
不動産を法人に移す対策全般に言えることですが、自宅は特例の効果が最も大きい財産なので、動かす前に特例ありの試算と比べることが欠かせません。当センターでは、自宅を個人で持つ場合と会社名義にした場合の相続税を並べて試算しています。相続税申告は基本報酬99,000円(税込・遺産総額4,000万円まで)から、非上場株式の評価は1社110,000円(税込)から、初回相談は無料でお受けしています。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する税務判断ではありません。実際の取り扱いは財産の内容や分割の仕方によって変わります。